階級とは、社会のなかで人々が経済的資源・権力・名誉・文化資本の偏在によって層に分かれている状態、あるいはその層そのものを指す用語です。身分(法的に規定された序列)やカースト(出生と宗教的儀礼で固定された序列)と比べ、階級は主として財産・職業・教育・ネットワークといった社会経済的要因によって形成され、一定の移動可能性を含む点が特徴です。世界史では、古代・中世の身分制から、近世の身分的序列と都市商人の台頭、近代の資本主義社会における賃労働者と資本家の対立、さらに帝国主義・植民地・福祉国家・グローバル化を通じた階級構造の変容が、政治運動や文化、戦争と革命の流れと密接に結びついてきました。本稿では、用語の整理から歴史的展開、理論的な見取り、現代的論点まで、世界史の学習に役立つ形でわかりやすくまとめます。
用語整理と視点—身分・カースト・階級のちがい、理論の枠組み
まず、似た語との区別を明確にしておくことが大切です。身分(エスターテ、秩)は、法と慣習で特権・義務が定められた集団で、貴族・聖職者・平民のような序列を指します。カーストは、出生・婚姻規則・宗教儀礼・職業が一体化した閉鎖的区分で、集団間の移動が構造的に制限されます。これに対し階級は、財産・収入・職業威信・教育資格・文化資本など、社会経済的指標の組合せで実質的に分化する層を指し、法的な身分規則が弱まる近代社会でとくに有効な概念です。
理論面では二つの古典的枠組みがよく参照されます。一つは、生産手段の所有関係に基づいて社会を区分する視点で、資本家階級と労働者階級(ほかに自営小生産者や地代で生きる地主など)を対置し、搾取と対抗・連帯・革命というダイナミクスを強調します。もう一つは、経済資源(階級)・政治権力(身分的支配)・社会的名誉(地位)の三軸で層化を捉える視点で、職業秩序と官僚制、教育と資格、宗教や文化的生活様式の差異が階層化を安定させる仕組みに目を向けます。現代では加えて、「文化資本」「社会関係資本(ネットワーク)」「象徴資本」の観点から、味覚・言語・習慣・学校歴・交友圏が再生産に果たす役割を分析する枠組みも広く用いられます。
歴史を読む際の実務的なコツは、①法的・宗教的な身分制と、②経済的・教育的な階級の二層構造がしばしば重なって存在する点に注意することです。近世ヨーロッパの「三身分」や東アジアの士農工商は、法と儀礼の秩序でありつつ、同時に都市商人・金融業者・地主・手工業者・小作農・無産都市民といった経済的階層がその内部で細かく分かれていました。どの層が政治的発言力を持ち、どの層が税負担や兵役の主力を担ったかを丁寧に見ていくと、「身分」と「階級」の相互作用が見えてきます。
前近代の階層と移動—農民・奴隷・都市民、身分制の内側にあった多様性
古代世界では、自由民・解放奴・奴隷の区別が社会の根幹でした。ギリシアやローマでは、都市の自由市民が参政権と法的保護を持ち、奴隷は財産として売買され、解放奴は限られた権利を持つにとどまりました。ローマ帝政期の大土地所有(ラティフンディア)は、奴隷・小作農・自由職人という分業と序列を固定化し、都市では商人・職人・下層民の間に大きな生活格差が存在しました。
中世ヨーロッパの領主制では、荘園に結び付いた農民(隷属農・自由農)の負担と、武装した領主・騎士の特権が社会の骨格を形づくりました。ここでも、法的には「祈る者(聖職者)・戦う者(貴族)・働く者(平民)」の三身分が社会の理念を表しましたが、実際には、都市の自治と商業の発展に伴い、商人ギルド・手工ギルドのなかで富裕な上層と徒弟・日雇賃金労働者の下層が生まれ、同じ平民の中でも階級差が広がっていきます。十字軍や遠距離交易、地中海・ハンザのネットワークは、金融と信用の技術を発達させ、都市上層の資本蓄積を促しました。
東アジアでは、科挙と地主制が階層を形成しました。中国の士大夫は、試験合格による政治的エリートであると同時に、土地・教育・人脈という複合資本を握る階級でもありました。明清期には、郷紳と大商人が結びつき、地域社会の秩序と文化(書院・祠堂・慈善)を支配しました。日本では、武士・農・工・商の序列が理念として掲げられつつ、実際には近世の商業化・貨幣経済の進展で豪商・豪農が台頭し、武士の知行経済は借財に依存する脆さを露わにしました。朝鮮でも両班が官僚・地主として文化資本と地位を独占しましたが、地方社会では中人・常民の間に経済力の差が広がり、移動の余地が生まれていました。
身分制は固定的に見えますが、戦争・疫病・政変の時には階層流動が大きく進みます。黒死病後の西欧で賃金が上昇し、農奴制が弱まったこと、明末清初の動乱で中国沿海商業が再編され、地方の富裕層が士大夫層に接近したことなどは、外的ショックが階級の扉を一時的に開く典型例です。前近代でも「固着」と「流動」は共存していたのです。
近代資本主義と階級—賃労働・資本・国家、帝国と都市の相互作用
産業革命以後、工場生産と市場統合が進むと、地主・企業家・商人・専門職・公務員・熟練工・未熟練労働者・家内工業・家事労働者など、多様な職業と雇用形態が都市を中心に重層化しました。生産手段(工場・機械・土地・金融資産)を所有する少数と、労働力を売る多数のあいだの所得格差は拡大し、労働時間・安全・賃金・女性や子どもの就労をめぐる社会問題が政治議題に浮上します。ここで、労働組合・相互扶助組合・社会主義政党・協同組合といった「階級の自組織化」が成立し、選挙権拡大と議会政治の進展に伴って、社会保険・労働法・教育の公的整備が進みました。
一方で、近代国家は徴税・軍役・教育を通じて人々を国民として組み替え、階級間の交渉を制度化しました。富裕層は議会・官僚制・財界ネットワークで影響力を維持し、中間層は資格と学校歴を足場に専門職・ホワイトカラーとして拡大し、労働者層は自治体と企業内の交渉力を高めました。20世紀前半の世界大戦は階級構造を揺さぶり、総力戦体制のもとで国家が賃金・物価・雇用を直接管理し、女性労働の拡張や福祉制度の拡充が進みます。戦後多くの国で成立した福祉国家は、社会保険と累進税制、公共サービスを通じて所得再分配を行い、「大きな中間層」を形成しました。
ただし、この「中間層の拡大」は世界全体で均等ではありません。帝国主義と植民地支配は、宗主国の資本蓄積と植民地の一次産品依存を固定化し、宗教・人種・民族的区分が階級と結びついて差別を制度化しました。プランテーションの労働者、鉱山や鉄道の移民労働、都市の人種隔離は、階級と人種・民族の交差(インターセクショナリティ)の典型です。さらに、社会主義革命を経た国々では、土地改革・国有化・計画経済が旧来の資本家・地主階級を解体する一方、党・国家の官僚エリート(ノーメンクラトゥーラ)が新たな優位層として現れ、住宅・配給・教育・職業配置で特権を獲得しました。体制の違いにかかわらず、資源配分の権限を持つ集団が優位を占めるという一般法則は変わりませんでした。
文化と生活様式も階級を可視化します。服装・住宅・食習慣・余暇・言語・礼儀作法・メディア消費は、しばしば趣味(テイスト)として個人の選好に見えますが、教育・家庭・地域コミュニティで学習される再生産の回路に組み込まれています。学校制度は認定(試験・資格)を通じて正統な文化資本を配布し、職場はネットワーク(紹介・推薦)を通じて社会関係資本を配分します。近代の階級は、工場や農地だけでなく、教室や職員室、面接室、住宅ローンや保険商品といった日常の制度にも深く埋め込まれているのです。
現代的論点—グローバル化・不平等・移動とアイデンティティ
20世紀末から現在にかけて、階級に関する議論は新しい局面を迎えています。製造業の国際分業とデジタル化は、国内の雇用・賃金構造を再編し、都市の高技能サービスと地方の製造・資源・ケア労働の賃金格差を拡大させました。金融化は資産所得の比重を高め、住宅・株式・退職年金の運用成否が家計格差を左右するようになりました。移民の増加は、民族・宗教・言語の多様性を高める一方、低賃金セクターの競争と排外的政治の台頭を引き起こす場面もあります。
福祉国家の見直しと民営化、非正規雇用の拡大、労働組合組織率の低下は、労働者階層の交渉力を弱め、中間層の内部を分断しました。高等教育の拡張は学位を普及させましたが、教育投資と家計資産の差が卒業後の軌道に長期的な影を落とし、「教育の階級化」をめぐる議論が続いています。都市では住宅価格の高騰が居住の分極化(ゲントリフィケーションと周辺化)を招き、通勤時間・保育・介護といった「時間資源」の格差が生活の質を大きく左右するようになっています。
こうした状況のもとで、階級アイデンティティは単独では表現されにくくなり、ジェンダー・人種/エスニシティ・地域・家族形態・年齢と絡み合って政治的な争点になります。賃金や税制をめぐる伝統的な労資の対立に加え、再分配(福祉)と承認(差別撤廃・権利保障)の政治が交差し、社会運動は職場だけでなく、街路・大学・オンライン空間で展開されます。環境・気候変動の問題もまた、エネルギー転換のコスト配分や雇用移行(ジャスト・トランジション)を通じて階級問題と結びつきます。
世界史の学習で重要なのは、階級を「固定観念」ではなく「変化しうる関係」として捉える視点です。生産・流通・権力・文化の結び付きが変われば、階級の境界と力学も変わります。革命や戦争の時代には急激な再編が起こり、平時には教育・税制・住宅・家族政策といった制度が静かに再生産を担います。比較の眼を持ち、同じ用語でも地域と時代で意味がずれること(たとえば「中間層」の規模や含意)がある点に注意すれば、階級というレンズは、国家・帝国・都市・家庭というスケールを横断して歴史を読み解く強力な道具になります。
総じて、階級は、社会に埋め込まれた資源配分と権力関係を可視化するための言葉です。身分やカーストの名残を受け継ぎつつ、近代の市場・国家・教育・文化を通じて形を変え、グローバル化とデジタル化の時代にも新しい姿で現れ続けています。階級を学ぶことは、抽象的な理論にとどまらず、食卓に並ぶもの、通勤にかかる時間、友人関係や言葉遣い、選挙や職場のルールといった身近な世界の背後にある力学を見抜く手がかりになります。歴史の各場面で「誰が何を持ち、誰が何にアクセスでき、何が正当化されてきたのか」を問い直すこと—それが階級という概念の実践的な価値なのです。

