間氷期 – 世界史用語集

間氷期とは、地球が氷期(氷河期中の寒冷期)と寒暖を繰り返す長い気候変動サイクルの中で、氷床が縮小し、気温と海水面が上がる比較的温暖な時期を指す言葉です。現在の人類社会は「完新世(約1.17万年前から)」という間氷期に暮らしており、そのおかげで海面は安定し、河川が穏やかに流れ、農耕が成立しました。間氷期は数千〜数万年のスケールで訪れ、北極・南極の氷の量、海面高度、季節風や偏西風の位置、生態系の分布に大きな影響を及ぼします。過去の間氷期を知ることは、氷床・海洋・大気・生態系が互いに影響を与え合う「地球システム」の仕組みを理解する鍵であり、将来の気候と海面の見通しを考える上でも重要です。ここでは、用語の基本、周期を生む天文学的要因、代表的な間氷期と証拠資料、海面や生態・人類史への影響、そして現在・将来の見通しを、わかりやすく整理して説明します。

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用語の基本と気候サイクル—「氷期」と「間氷期」の関係

まず大前提として、「氷河期」と「氷期」は区別して使われます。広い意味の「氷河期」は、地球史の中で高緯度に恒常的な氷床が存在する長期の寒冷時代を指し、現在も南極氷床があるため私たちは依然として氷河期の最中にいます。その氷河期の内部で、氷床が拡大して寒冷化が進む時期が「氷期(glacial)」、いったん氷床が縮小して温暖化する時期が「間氷期(interglacial)」です。

更新世(約258万年前〜1.17万年前)の後半以降、氷期・間氷期はおよそ10万年周期を基本とする波のように繰り返されてきました。その前の中期更新世以前には4万年周期が目立ち、さらに古い時期には2万年規模の変動が見られます。周期の切り替わりは、地球の公転・自転の幾何学(いわゆるミランコヴィッチ・サイクル)の相互作用と、氷床や海洋循環、温室効果ガス、反射率(アルベド)などの内部フィードバックが組み合わさって生じたものと理解されています。

間氷期は気温が高いだけでなく、降水の季節分布、モンスーンの強さ、偏西風の蛇行、海氷の面積など、気候の「型」そのものが氷期と異なります。植生が拡大し、砂漠が後退し、海面上昇で大陸棚が海に沈むなど、地形・生態・沿岸の地理が大きく変わります。

周期を生む要因—ミランコヴィッチ・サイクルと地球システムの応答

氷期・間氷期のテンポを刻む最上流の「拍子」は、地球軌道の三つのゆっくりした揺らぎです。第一に「離心率(軌道の楕円度)」が約10万年〜40万年のリズムで変化し、太陽から受ける年平均のエネルギー配分に影響します。第二に「地軸傾斜(斜度)」が約4.1万年周期で21.5〜24.5度の間を揺れ、季節のメリハリの強弱を左右します。第三に「歳差運動(首振り)」が約1.9万〜2.3万年周期で、夏至・冬至の位置関係をずらし、高緯度の夏の日射を増減させます。

氷床は特に「高緯度の夏の日射量」に敏感です。夏の日射が弱い時期が続くと、冬に積もった雪が夏に融け残り、年々積雪が蓄積して氷床が成長します。逆に夏の日射が強いと、氷は融けやすく、氷床が縮小します。ここに、海洋の二酸化炭素吸収・放出、海氷・雪氷の反射(アルベド)、海流による熱輸送、植生の拡大・後退といった内部フィードバックが加わります。例えば、氷が増えると地表の反射率が上がり、さらに寒くなるという「正のフィードバック」が働きます。反対に、氷が減ると海と陸が多くの太陽光を吸収し、温暖化が進みます。

温室効果ガスも重要です。氷期には大気中のCO₂が低下し(おおむね180〜200ppm程度)、間氷期には上昇します(260〜300ppm程度、完新世初期)。CO₂の変動は海洋の溶解・放出、海水の温度、海洋生物のポンプ作用、風塵供給(鉄施肥効果)などの連鎖を通じて起こり、気温と互いに強め合います。氷床・海洋・大気・生態の間で、遅速の異なる反応が絡み合い、大きな周期が形づくられるのです。

代表的な間氷期—エーミアン、完新世、そしてその他

直近の間氷期は、私たちが生きる「完新世(Holocene)」です。約1.17万年前に始まり、氷床の後退・海面上昇ののち、気候が安定化しました。縄文海進に象徴される海面上昇は、太古の河谷を満たして沿岸に多島海や干潟を形成し、人間の漁撈・交易・定住の展開を後押ししました。完新世の中にも、縄文時代の温暖湿潤ピークや中世温暖期・小氷期など数百年〜千年スケールの波がありますが、氷期・間氷期ほどの規模ではありません。

完新世の一つ前の間氷期は「エーミアン(Eemian、海洋酸素同位体段階でMIS5e)」で、約13万〜12.5万年前に相当します。エーミアンは現在より数度暖かく、海面は現在より数メートル高かったと推定されます。グリーンランドや西南極の氷床が小さく、サバンナ・森林帯が高緯度に広がりました。化石・堆積物・洞窟の石筍・氷床コアなど複数の証拠が、当時の温暖と海面高を裏付けています。

さらに過去には、MIS11(約40万年前前後)の長い間氷期が知られており、完新世と似た軌道条件のもと、温暖で海面が高い時期が続きました。各間氷期は一様ではなく、地域ごとの温度・降水・植生の応答に差があり、氷床の配置や海流のルート、火山活動、太陽活動などの外乱が重なって、さまざまな「顔」を見せます。

証拠資料—氷床コア・海底堆積物・陸の記録

過去の間氷期を復元する「タイムマシン」は、自然の記録媒体です。南極・グリーンランドの氷床コアには、年層の雪が圧縮された氷の中に気泡(当時の大気)が閉じ込められており、CO₂・CH₄濃度や酸素・水素同位体比(温度の指標)から気候を読み解けます。氷の層序は、火山灰の層や宇宙線起源の同位体(¹⁰Be)などで年代合わせが可能です。

海底堆積物では、有孔虫の殻に含まれる酸素同位体比(δ¹⁸O)が海水温や氷床量の指標となります。深海掘削で得られた長大なコアからは、数百万年にわたる氷期・間氷期のリズムが抽出され、MIS(Marine Isotope Stages:海洋酸素同位体段階)として番号づけされました。奇数番号が間氷期、偶数番号が氷期を表すのが通例です。

陸域でも、洞窟の鍾乳石(石筍・石柱)の酸素同位体、湖底の花粉・珪藻・年輪、黄土高原の黄土—古土壌サイクル、砂丘の固定・活動の痕跡などが、地域気候の変化を物語ります。沿岸では、海成段丘やビーチロックが過去の高海面を示し、年代測定(U–Th法、OSL法など)と合わせて海面変動のカーブが復元されます。これら複数の記録を相互に較正し、地球規模の「縦糸」と地域の「横糸」を織り合わせるのが古気候学の作法です。

海面と地形—陸橋が現れ、また沈む

氷期と間氷期で最も目に見える違いが海面高度です。氷期の最盛期には、巨大な氷床が海水を陸上に固定するため、海面は現在よりおよそ120メートル低下しました。これにより、ベーリング陸橋や対馬海峡の浅瀬、スンダ陸棚などが露出し、大陸間の動植物・人類の移動路が開かれました。逆に間氷期には海面が上がり、陸橋は沈み、沿岸低地が海に覆われます。河谷が溺れ谷(リアス)や内湾となり、湿地や干潟、生物多様性の高い浅海が広がりました。

海面上昇は一様ではありません。氷床の重みで地殻が押し下げられる「アイソスタシー」や地球の重力場・自転の変化、地域の地殻変動(隆起・沈降)の影響で、地域差が生じます。たとえば、氷床の縁に近い地域では、氷が融けた後に地盤がゆっくりと持ち上がり(グレイシャル・アイソスタティック・アジャストメント)、相対海面が下がることがあります。反対に、遠方の地域では海面が相対的に高くなる場合もあります。

生態系とモンスーン—緑の帯と砂漠の呼吸

間氷期には、高緯度の森林限界が北へ移動し、ツンドラが縮小します。サバンナや温帯林が広がり、生物多様性が高まる一方、寒冷適応の生物は生息域を狭められます。アフリカ・アジアのモンスーンは一般に強まり、内陸の湖が拡大し、砂漠が小さくなる傾向が観察されます(ただし地域差・時期差は大きい)。湿潤化は人と動物の移動・交流を促進し、考古学的には定住と文化の多様化が進む舞台となりました。

海では、温暖化にともなう海氷の縮小と成層強化が一次生産に影響し、サンゴ礁は海面上昇と水温・酸性化のトリプルストレスのもとで分布を変えます。間氷期の高海面期には、サンゴ礁段丘が形成され、やがて隆起して化石礁として残ります。これらは過去の海面のよい指標です。

人類史との関わり—更新世の旅と完新世の暮らし

人類の拡散は、氷期・間氷期のリズムに大きく影響されました。氷期の低海面期には、ベーリング陸橋経由のアメリカ大陸への移動、スンダ—サフル間の島伝いの移動が可能になり、寒冷・乾燥に適応した狩猟採集戦略が発達しました。間氷期には、森林や草原の拡大、湖沼の増加が食資源の多様化をもたらし、完新世に入ると気候の安定化が農耕・牧畜の発明と拡大を後押ししました。

沿岸の海面上昇は、縄文海進のように内湾・干潟の恵みを生みつつ、低地の居住地を浸水させ、移住と技術革新(高床・堤防・運河)を促しました。間氷期の温暖は病原体・寄生虫の分布にも影響し、マラリアなど熱帯性疾患の北上・南下が人口動態や社会構造に波及したと考えられます。

現在の間氷期と将来—人為起源の温暖化の中で

私たちは完新世という間氷期に暮らしていますが、産業革命以降の温室効果ガス増加により、気温上昇と海面上昇が加速しています。大気中のCO₂濃度は産業革命前の約280ppmから、現在は400ppmを大きく超える水準にあり、過去の多数の間氷期と比べても高い値です。この人為的な強制(フォーシング)は、自然の軌道要因がもたらす冷暖のゆらぎを上書きし、次の氷期の到来時期を遅らせる可能性が指摘されています。

将来の海面は、熱膨張(海水が温まって膨らむ効果)と氷床の質量損失で上がります。特にグリーンランド氷床と西南極氷床の安定性は重要で、臨界を越えると数世紀〜数千年スケールでメートル単位の上昇を引き起こす恐れがあります。過去の間氷期、例えばエーミアンでは数メートル高かったことを思い起こすと、現在の温暖化がそのスケールの変化を誘発しうることは、決して過度な懸念ではありません。

政策的には、温室効果ガスの排出を削減し、沿岸・水資源・生態系の適応策を整えることが急務です。過去の間氷期の記録から、気候システムはゆるやかに見えて、しきい値を越えると急変する振る舞い(ティッピング)を示す可能性があると学べます。氷床の後退、海氷の急減、モンスーンの再編、アマゾンの乾燥化など、相互連鎖に注意が必要です。

学際的な読み解き—古気候学・地形学・考古学の接点

間氷期研究は、氷床コア・深海コアの化学分析、地形の測量と年代測定、動植物化石の群集解析、古DNA、数値気候モデルといった多様な手法を総動員します。例えば、海成段丘の高度と年代から過去の海面を見積もり、氷床モデルと合わせて氷の厚さ・広がりを復元します。洞窟鍾乳石の同位体は、過去の降水源やモンスーンの強度を示し、花粉記録は植生帯の移動を追跡します。考古学の遺跡分布は、資源・気候の窓が開閉するタイミングに対応して変わることが多く、自然記録と人間活動の対応関係が立体的に描けるようになってきました。

また、データ同化やベイズ推定などの統計的方法が、各種記録の不確実性を定量化し、複数証拠の統合を助けています。これにより、間氷期のピーク時の気温・海面・降水パターンの推定が精緻化し、地域ごとのリスク評価や将来予測の検証にも役立ちます。

このように、間氷期は単なる「暖かい時代」ではなく、地球の軌道力学と氷床—海洋—大気—生態の相互作用が紡ぐ総合現象です。過去の間氷期を読み解くことは、未来の地球と人間社会の選択肢を見通すうえで、もっとも信頼できる手引きの一つになります。