上院 – 世界史用語集

「上院(じょういん)」とは、二院制(両院制)の議会をもつ国や地域で、下院と対をなす「もう一つの議院」を指す言葉です。英語では upper house や second chamber などと呼ばれ、イギリスの貴族院(House of Lords)、アメリカ合衆国の上院(Senate)、フランスの元老院(Sénat)などが代表例として挙げられます。世界史では、「上院=多くの場合、地域代表や身分・エリート層を代表し、法律案の再検討・抑制・熟議を担う院」といったイメージで登場しますが、その成り立ちや権限は国によって大きく異なります。

もともと欧米の上院の多くは、王や貴族、聖職者など、社会の上層部・特権階級を代表する機関として発達しました。イギリスの貴族院は、その典型例です。一方で、近代以降の多くの国では、上院は貴族や特権身分を代表する役割から、「地方・州を代表する院」へと性格を変えたり、専門的・長期的な観点から法律を点検する「再考の院」として位置づけられたりしてきました。アメリカ合衆国の上院は、各州から平等な議員数を出すことで、人口の多い州と少ない州のバランスを取る機関として作られています。

この解説では、まず「二院制と上院」という枠組みから、上院がどのような目的で設けられるのか、その一般的な意味を整理します。つぎに、歴史的に重要なイギリスの貴族院とアメリカ上院を取り上げ、それぞれの性格と役割の違いを見ます。さらに、フランスやドイツ、日本など、他の国の上院の例にも触れながら、「上院は必ずしも一つの型にはおさまらない」という点を確認します。概要だけでも、「上院=二院制の中で、もう一方の院を補完・チェックし、しばしば地域代表やエリート層を代弁する議院」とイメージできるようにしつつ、詳しい特徴は各見出しで理解していく構成にします。

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二院制と上院の基本的な役割

まず、二院制とは何か、そしてその中で上院にどのような役割が想定されているのかを確認します。二院制(両院制)とは、立法機関である議会が「二つの別々の議院」で構成されている制度です。一般には、下院(第一院)と上院(第二院)という呼び方がされます。これに対し、議会が一つの議院だけで構成される制度は一院制と呼ばれます。

二院制にする目的としては、主に次のようなものが挙げられます。一つ目は、「立法過程にブレーキと熟議の機会を設けること」です。一つの議院だけで法律を決めると、選挙の風向きや一時的な世論の高まりに押されて、拙速な立法が行われる危険があります。そこで、もう一つの院に同じ法案を通させることで、二重チェックをかけ、時間をかけて審議させようとする考え方です。この観点から、上院はしばしば「再考の院」「抑制の院」と呼ばれます。

二つ目の目的は、「異なる原理で選ばれた代表を組み合わせること」です。たとえば、下院は人口比例で選ぶことで「国民全体の多数派の意思」を反映させ、上院は地方や州ごとに同じ数の議員を選ぶことで「地域の平等」を確保する、という発想があります。アメリカの連邦議会では、下院(House of Representatives)は人口に比例した議席配分で州民の代表を選び、上院(Senate)は各州から2名ずつ選ぶことで、小さな州の意見も無視されないような構造にしています。

三つ目の目的として、「経験や専門性を重視した議員による審議」を期待するケースもあります。上院議員は下院議員より任期が長く、再選制限のあり方も異なるため、短期的な選挙事情に左右されにくいとされます。また、弁護士・元高級官僚・学者・地方政治のベテランなど、一定の経験を持つ人が選ばれやすい仕組みを持つ国もあります。こうした院は、ポピュリズム(大衆迎合)に流されにくい「冷静な熟議の場」とみなされることがあります。

ただし、こうした理想が常にうまく機能するとは限りません。上院がエリート層の利益を守り、改革の邪魔をする機関として批判されることもあります。また、一院制の方が効率的で民主的だという主張もあり、国によっては上院を廃止して一院制に移行した例もあります。したがって、上院の意味を考えるときには、「なぜその国は二院制を選び、上院にどんな機能を持たせようとしたのか」という歴史的・制度的背景を押さえることが重要です。

イギリスの貴族院――身分制から改革の対象へ

上院の伝統的なモデルとしてよく挙げられるのが、イギリスの貴族院(House of Lords)です。イギリス議会は上院である貴族院と下院である庶民院(House of Commons)から構成され、長い間、貴族院は世襲貴族や高位聖職者(国教会の司教)によって占められてきました。これは、中世ヨーロッパの「身分制議会」を引き継いだ形であり、国王・貴族・聖職者が政治の中枢を担う構造を反映しています。

貴族院は、もともと王に助言する諮問機関として発達し、重要な条約や法律に同意する役割を持ちました。近代に入り、選挙で選ばれた庶民院の力が強まる中でも、貴族院はなお、「保守的な上層階級の代表」として、法律に拒否権を行使したり、庶民院の改革的な法案を修正・否決したりしました。このため、19世紀以降、選挙権の拡大や議会改革が進む中で、「民主的正当性に欠ける貴族院が、民意の代表である庶民院の決定を妨げてよいのか」という問題が繰り返し提起されました。

20世紀初頭、自由党政権が社会改革のための予算案を提出した際、貴族院がこれを拒否したことから大きな政治危機が生じ、1911年の議会法(Parliament Act)によって、貴族院の拒否権は大きく制限されました。その後も段階的な改革が行われ、世襲貴族の数を減らし、任命貴族や終身貴族を増やすなど、貴族院の民主化・機能転換が進みました。21世紀に入ると、「もはや上院は世襲貴族の集まりではなく、経験豊かな有識者からなる再考の院」という面が強まりつつありますが、なお「選挙で選ばれていない院」の正当性をめぐる議論は続いています。

イギリスの例からは、「上院が歴史的には貴族など特権身分の代表であり、近代民主主義の中で激しい改革の対象になってきた」という点、そして「上院の権限を制限し、下院優位の原則を確立することで、二院制と民主主義の両立を図ろうとしてきた」という流れを読み取ることができます。

アメリカ合衆国の上院――州の代表としての役割

これに対して、アメリカ合衆国の上院(Senate)は、貴族や身分を代表する院ではなく、「州」という地域単位を代表する院として設計されています。アメリカ合衆国は、もともと独立した13の植民地(後の州)が連合してできた国家であり、各州は自らの権利と自治を強く意識していました。そのため、連邦レベルの議会を作る際には、「人口の多い州も少ない州も対等に扱う仕組み」が求められました。

その結果、1787年の憲法制定時に、「連邦議会は二院制とし、下院は人口比例、上院は各州から同数の議員(現在は2名)を選出する」という妥協案が採用されます。これを「コネティカット妥協」と呼びます。こうして、上院は「州の平等な代表」を体現する機関となりました。上院議員は当初、各州議会によって選出されていましたが、20世紀初頭の憲法修正によって、現在は州民による直接選挙で選ばれるようになっています。

アメリカ上院は、連邦レベルの法律制定において下院と同等の権限を持つだけでなく、条約の批准や高級官僚・連邦裁判所判事の承認など、特別な権限も与えられています。大統領が国務長官や最高裁判事を指名しても、それが正式に就任するには上院の「助言と承認(advice and consent)」が必要です。この仕組みは、行政府(大統領)に対する強力なチェック機能として働きます。

また、上院議員の任期は6年と比較的長く、3分の1ずつが2年ごとに改選されるため、一度の選挙で上院全体が入れ替わることはありません。これにより、短期的な世論の変化に左右されにくい「安定した院」としての性格が意図されています。アメリカ上院は、イギリスの貴族院とは違い、「民主的な選挙で選ばれるが、下院とは別の原理(州代表・長期任期)によって構成される上院」という特徴を持っています。

このように、アメリカでは「上院=州の代表」「下院=国民人口の代表」という役割分担を通じて、連邦制国家におけるバランスを取ろうとしてきました。一方で、人口の少ない州も大きな州と同じだけの上院議席を持つため、「人口の少ない州の有権者の方が、一人当たりの影響力が大きい」という批判も存在します。上院の制度設計は、民主主義と連邦制との間の妥協の産物だと言えます。

その他の国の上院と一院制への流れ

フランス、ドイツ、日本など、多くの国にも上院にあたる議院が存在しますが、その構成や権限はさまざまです。フランスの元老院(Sénat)は、主として地方自治体の代表を間接選挙で選ぶ院とされ、地方の利益を国政に反映させることが目的の一つとされています。ドイツの連邦参議院(Bundesrat)は、連邦各州政府の代表が集まる機関であり、各州首相や担当閣僚が直接参加する「州政府の代表機関」という性格を持っています。このように、「地域代表」という上院の役割は、連邦制国家では特に重視される傾向があります。

日本の国会にも、衆議院(下院)と参議院(上院)という二つの議院があり、「国権の最高機関」として立法を行っています。参議院は、任期6年・3年ごとの半数改選という仕組みを持ち、衆議院より長期的な視野から政策を検討することが期待されています。また、政権選択に直結しやすい衆議院と比べて、参議院は政権交代の影響を受けにくいとされ、「多様な意見や少数派の声を反映しやすい院」としての役割も議論されています。ただし、日本では「ねじれ国会」(両院で多数派が異なる状態)によって政治が停滞することもあり、参議院のあり方をめぐる議論は現在も続いています。

一方、世界には上院を持たない一院制の国も多く存在します。スウェーデンやデンマーク、ニュージーランドなどは、かつて二院制だったものの、上院を廃止して一院制に移行した例です。理由としては、「上院が実質的な権限をほとんど持たず、改革の足かせになっている」「行政や立法の効率を高めるため、一院に権限を集中させた方がよい」といった議論が挙げられます。

このように、上院の存在と役割は、各国の歴史・社会構造・政治文化によって大きく異なります。貴族や聖職者を代表する伝統的な上院から、地域代表・州代表を担う上院、専門性を期待される再考の院としての上院まで、バリエーションはさまざまです。その一方で、現代の民主主義国家においては、「上院は民意をどのように反映しているのか」「上院が下院に対してどの程度の権限を持つべきか」という問題が常に問われています。

世界史で「上院」という用語に出会ったときには、まず「二院制のうち、しばしば地域・身分・エリート層を代表し、法律の再検討や抑制的な役割を担う院」であることを押さえつつ、その国ごとに「誰を代表しているのか」「どう選ばれるのか」「どんな権限を持っているのか」を見ていくと、制度の違いと歴史的背景が理解しやすくなります。上院という存在を手がかりに、各国が「多数派の意思」と「地域・少数派・長期的視点」とのバランスをどう取ろうとしてきたかを読み解くことができます。